2021/06/08
十数年間、アルコールに浸っていた。日本酒に換算して、1日最低1升は飲んでいた。
平成10年5月、重度のアルコール依存症と診断され、断酒しなければあと5年で死ぬ、と医者から脅かされた。この病気の特徴として「脳萎縮」がある。MRIで自分の脳を確認した。医者の説明を聞くまでもなく、スカスカになっているのがありありとわかった。牧伸二さんのセリフを借りれば「あ~あ、やんなっちゃった……」である。ショックだった。
平成21年1月9日に断酒を決意した。しかし脳萎縮状態のせいで、物忘れがひどかった。子供の頃に覚えた掛け算の九九もほとんど忘れてしまっていた。このままではいけないと思った。少しでも脳の力を取り戻したいと考え、川島隆太先生の著した音読・計算ドリルに挑んだ。「音読ドリル」は、日本昔話などの文章を速く読む。私はもともとひどい吃音であり、加えてアル中の症状により舌が回らず、1行読むのもたいへんだったが、机にかじりつきこの困難と戦った。そして、日常会話ができるところまで回復した。「計算ドリル」は1ケタの加減乗除の計算を速く行う。当初は九九のほとんどを忘れていたのできつかったが、1ケタの計算を暗算でできるところまで回復した。日常生活を送る上での必要最小限の脳力が回復したと思った。しかし、人間というのは欲張りなもので、さらに脳力を向上させたいと思っていた。
平成23年2月、新聞広告の中から「ユーキャン 新・速読講座」というものを見つけた。
速読については、断酒前であるがそれまでも、いくつかの教室に通ったことがあった。きついヨガ体操を強制して、超能力をわきたたせようとする教室。線香臭く宗教的色彩の強い教室。目標読字数に到達できるまで外に出してもらえない教室。高い教材を買わされ、高いセミナーに参加させる教室など、どれも飲まずにはいられない飲酒欲求をかきたてる内容が多く、すべてに長く続かずドロップアウトしてしまっていた。
ユーキャンの通信講座は値段も手頃であり、まあ、まただまされたつもりでやってみよう、と思い、受講を開始した。多少しんどくても、全55回を最後までがんばって続けてみようと決意した。
教材にはBTRメソッドについて以下の導入テキストがついていた。
「マンガなぜ速読ができるのか」では、松田先生と受講生とのやりとりからプログラムの目的がわかりやすく理解できた。「速読体験レッスンビデオ」では、速読初体験の人たちとともに、スタッフの方が参加しており、両者の数値の差に驚かされた。しかし、がんばればスタッフの方の数値まで到達できるのでは、との目標が芽生えた。次に松田先生からのBTRメソッドについての解説が収録されており、プログラムの内容を論理的に理解できた。これらの教材のおかげで、通信学習をスムーズに進めることができた。
不思議なことだが、きついと予想していたトレーニングが、割に楽しくできることに驚いた。その楽しさのためか、いつしか飲酒欲求が全くなくなり、最後のレポートを必ず提出しようとの目標へ向け、自主トレも含め、毎日のように机に向かった。その成果が出たと感じられたのは、平成24年7月、サービス介助士2級(日本ケアフィッター協会主催)の試験に合格したことであった。名前もまともに書けなかった状態のときを考えれば、まさに奇跡であった。
感動した私は、さらに可能性を求め、「ユーキャン 新・速読講座」を主催しているクリエイト速読スクールへ通学することを決意した。通信講座と格闘していたおかげだろうがスピーディーな教室のプログラムにもすんなりとなじめた。
しかし、教室には優秀なビジネスマンや大学生、高校生がいる。彼らはどのプログラムでも高い数値を出す。受講の都度、私が目標としているのは、訓練のどれか1つについて彼らより高い数値を出すことだった。たまにそれが成就すると、この上もない興奮と喜びに包まれる。脳が若返ったようなうれしい気持ちになった。しかし、ロジカルテスト、イメージ記憶は、脳萎縮の影響であろうか、なかなか数字が上がらずもがき続けた。この2つのメニューは大キライであった。その後、講師の方たちからアドバイスをいただき、キライな2つのメニューが次第に楽しくなり、数字が伸びてきた。とくにロジカルテストはある時期から突然解くスピードが上がり、Cレベルまでできるようになってきた。
生まれつきの弱視のため、シート訓練はきつかった。当初はシートに顔がくっつきそうなくらい近づけて見ていた。松田先生が「安藤さんなりでかまいませんから、できるだけ離してみるように」とアドバイスをくれ、また、視野を広げるサッケイドシートの訓練により、少しずつではあるが、目とシートの距離が離れていった。サッケイドシートは現在、100前後の数値を毎回出している。かなブロックパターンシートは当初は一字一字を目でなぞっていた状態で、なかなか数値が上がらなかったが、最近では少しずつ全体を見れるようになり、文字が目に飛び込んでくるのを実感できるようになった。
私は数字が大キライである。しかし、仕事で数字を処理することが多いことなどから、簿記の勉強を始めた。数字ブロックパターンシート、スピードチェック(数字版)の訓練をもがきながらも続け、何度か投げ出そうとかと思った苦手な数字処理学習を歯をくいしばって継続した。しだいに簿記の勉強がしやすくなり、晴れて平成25年11月、日商簿記3級に合格した。主治医も「これは奇跡だ」と、驚いていた。
クリエイトのトレーニングは脳に刺激を与えるものだから楽しいが、私にとってはつらくもあった。だが、結果が出るというのはこの上なく嬉しいものだ。
さらなる可能性へ向け、「文章演習講座」を受講した。
何回か受けるうちに、東大生や司法試験挑戦者という高いレベルの人たちが受講していることがわかった。これではついていけないな、と思った。しかし、松田先生の解説はわかりやすく、様々な環境の人たちにも共通して理解しやすいものとなっている、と感じた。松田先生は全ての受講生に対して分け隔てなく、同じようにアドバイスしてくれた。おかげで様々なレベルの人たちと切磋琢磨できる自信がつき、自分の文章作成についての理解も上がっていった。文章の流れ方やルールをハッキリ知ることができたので倍速読書訓練の理解度までが向上した。
他に良かったこととしては、作家や新聞記者というプロの書き手の書く文章は、何と読みやすいのかということを初めて知ることができた。貴重な資料をいただいたことや論理をつかまえる訓練ができたこと、他の受講生の意見をうかがえたこと等々、「文演」は私の物の見方や考え方に大きな影響を与えてくれた。
アルコール依存症で入院したり、断酒とそのリバウンドで10日間何も食べずに連続飲酒等々を繰り返し、生死の境をさまよった。今、生きていることによろこびを感じている。それはクリエイト速読スクールが私に生きる目標と価値と可能性を与えてくれたからだと思う。